【書評】新・所得倍増論

 

 

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こんにちは。ごーいわです。

 

「生産性」

経済を語る上ではもはや避けては通れない単語である。特にこの日本においては。

 

先進国で最低の生産性、日本がそんなレッテルを貼られて久しい。

なぜ日本の生産性は低いのか??をテーマにしたテレビのニュース番組や経済紙誌の特集は食傷気味ですらある。

 

ミクロな視点ではビジネスパーソンに向けた個人(読者)の生産性向上を促す自己啓発本やhow to本なんかも無数に出版されている。

万策尽きた日本政府が、日本人一人一人の心意気に最後の期待を込めてダメ元のプロパガンダでもやってるのではなかろうか?と疑うほどその手の本を書店で見かける。

 

ちなみに何を隠そうこの私は生産性とは程遠い人間だ。30年とちょっとこの日本で生きてきたが何かを生産した記憶がない。ギャンブル好きな私はロクな消費活動すらできてない。

いやもちろん、こんな私が日本人を代表する気なんてさらさらないのだけど…




今回は日本の生産性について厳しい目線で現実を捉えながらも、日本の潜在能力に大きな期待を寄せ奮起を呼び掛ける1冊を紹介したい。

 

雑誌「東洋経済」を購読している方ならお馴染みだろう、デービット・アトキンソンシリーズからの1冊、「新 所得倍増論」だ。

 

アトキンソンマニア(なんじゃそら?)の方ならピンと来るかもしれないが、アトキンソンシリーズには「新 生産性立国」というもろに生産性をタイトルにしている本が別に存在する。

だが安心してほしい!なにをどう安心してほしいのか意味はよくわからないが、とりあえず本書「新 所得倍増論」も生産性に焦点を当てた主張がなされている。



まず本書を読むに当たって何卒ご注意いただきたいことがある。

それは日本への愛が強すぎる方、あるいは現在の日本は強いと信じている方は本書を読んではいけないということだ。

著者は日本に20年以上在住しているイギリス人の経済アナリスト、日本への愛は強く、それゆえに日本の奮起を願ってやまないとして、一定のデータを論拠として日本についてのそれはそれは厳しい指摘を延々と繰り広げる。

その長さ実に260ページ!本書は全体で約300ページしかない。つまり最終章の約40ページ以外は全て日本に対する手厳しい指摘なのである。

日本への愛が強すぎる方、現在の日本は強いと考えている方には到底耐えられないだろう…憤死するか、ショック死するかしかねない。

著者の主張が正しいかどうかはさておき…




では一体著者は何をそれほど厳しく指摘しているのか?それこそが本記事の冒頭でも触れた

 

「日本は先進国でもっとも生産性が低い」

 

ということである。

 

日本は世界第3位のGDPを誇る経済大国であるという事実もあるが、それは人口の多さ、言わば「規模の経済」がもたらすものである。一人あたりGDPに換算すると途端に25位以下になる。

国別の輸出額やノーベル賞受賞者数などでも日本は上位に位置する。だがこれらも同じく、一人あたりや人口割合に換算すると実は日本は上位にはいない。

あらゆる国別ランキングにおいて日本が輝かしい実績を保持しているように見えるのは全て人口が多いからという極めて単純な理由だ。一人あたりに換算するとむしろ他国より悪い。

すなわち、生産性が低い、それが日本の真実である、というわけだ。

 

もちろんこれら主張は著者独自のものではない。もはやテレビや経済紙誌でお馴染みになっている程なので、皆さんはこの「事実」対する知見をお持ちだろう。

本書でもさまざまな日本の生産性に関する負のデータを表や図で提示してくれている。

 

本書で注目すべき点は生産性が低いという事実を今更改めて確認することではない。

考えるべきは260ページに渡る厳しい指摘「なぜ生産性がひくいのか?」というところにある。

 

著者の仮説ではその多くが日本人の気質や社会の風潮、マインド・考え方などのどこか抽象的と言える部分を原因としている点がおもしろい。

 

・GDP3位にランクインしているような輝かしい実績が「自分たちはすごい」という油断意 識を生んでいるのではないか?

・明治時代に芽生えた対欧米への「追いつけ追い越せ」の戦争学的意識が今でも邪魔をして いるのではないか?

 

そういったものが挙げられている。もちろん確たる数値で日本の生産性の低さの原因を説明できている学説など存在しないので、「データがないから著者の仮説は信用に値しない」などといった短絡的な判断にはならない。だがこれらがあくまで仮説である以上、事実認定には検証が必要だろうし、全く別の視点で仮説立てをしたり、そもそも日本において生産性の追求が必ずしも正義とは限らない、と唱えることだってできるのだ。

 

誤解がないようここで断っておきたい、私は著者に反論を唱える気もなければ反証を提示できるほど経済学に精通してるわけではない。むしろ経済学など知らない。(じゃーこんな書評書くな!)

先述したような憤死、ショック死といった皆さんの不慮の事故のリスクを回避するためにあくまで著者の主張は「仮説だ」と念を押しているのである。



私が個人的に注目せざるを得なかった著者の仮説は日本におけるITの活用についてだ。

なぜなら実は私はIT知識ゼロでIT企業に勤めているペテン師である。ITと聞くとビクついてしまうぜ。

本題に戻ると、日本以外の世界の先進国で生産性が向上した大きな要因としてサービス業において生産性が向上したことがあるという。※これはデータ付

そしてサービス業こそIT活用が最も活性化した業界の一つであり、すなわち日本以外の国ではサービス業でのIT活用化が成功し、生産性が向上したということなのだ。

 

逆に日本ではサービス業の生産性向上は見られず、それが生産性において日本が世界と差を開けられた原因であるという。それはつまり世界各国に比べて日本ではITの活用化が失敗したということだ。

 

それはなぜか???

 

ITの有効活用化実現には

「ITを人の働き方に合わせるのではなく、人の働き方をITに合わせることが重要」

というのが定説らしいのだが、変化を嫌うあるいは恐れる文化・国民性を持つ日本ではもっぱら前者の思想が適用されてしまったのだろう、というのが著者の主張だ。

これには私も妙な納得感を覚えた。

 

とまあこんな感じで冒頭から260ページもの間、多角的な指摘が仮説と共に展開されている。



そして最終章で、どのようにして日本は生産性を向上できるか?!を提起する。

 

長きに渡り指摘を列挙してきたこれまでに比べると最終章は極めて短い。それが故に、著者からの改善策の提言はデータや考察をすっ飛ばし「こうすべきだ」と端的に述べられている。

その語り口はまるで村上世彰氏よろしく物言う株主のそれであった。

 

 

※次回更新は4/19(金)です※