【書評】ピーターの法則
ビジネスパーソン必見!
組織で働く多くの方はこのような疑問や不満を持ったことがあるのではないだろうか?
「私の上司は仕事ができないのではないか?」
「うちの上層部はなぜいつも判断を誤るのだろうか?」
あるいは既にある程度の職位に就いている方であれば
「私は管理職に向いていないのではないか?」
こんな不安を抱いている方もいるだろう。
そして皆さんはあるひとつの大胆な結論に帰結する。
「上にいる人間は無能だ!」
かく言う私 ごーいわ もしがないサラリーマンである。毎日同じような疑問について何百回と考えを巡らせている。むしろそれだけで日々の就業時間を終えている。(仕事しろ!)
だが安心してほしい。これらの疑問に何ら間違いはない、それどころかこれは社会の真理であるらしい。
「社会には無能が溢れている。」
そう提唱する説が存在したのだ…。
今回紹介する一冊は「ピーターの法則」である。
(初版は古く、もともと有名な本であるそうだが昨年「今でしょ?!」でお馴染みの林修先生がテレビで紹介し再度話題になったりもしたようである。)
ピーターの法則とはざっくり言うとつまりこういうことだ。
「有能な者は昇進し、やがて自分が無能レベルとなる地点に到達しそこに留まり続ける。
そしていつか全てのポストは無能によって埋め尽くされる。
仕事はまだ無能レベルに到達していない者によって行われている」
さらに、この法則からは逃れられないのだそうだ。
この絶望的に救いのない法則について、数多の事例を上げ本書は展開されていく。
分かりやすい例がプレーヤーとマネージャーの関係だろう。
例えば工場だ。作業員として非常に優秀でミスはなく納期も完璧に守る者がいるとしよう。これを作業員Aとする。当然その者は今、有能である。そして昇進を遂げ主任になる。
主任の仕事はチームの作業員の作業管理だ。作業員として優秀だった主任Aは今までとは違う能力を求められるようになる。残念なことに主任Aには部下の品質や納期を上手に管理する能力がない。主任Aの管理するチームは成果を上げることが出来ず、主任Aはかわいそうに無能の烙印を押されることになる。
この時主任Aの部下や同僚はこんな疑問や不満を抱くはずだ。
「主任Aは仕事ができない。」
「なんであんな管理能力がない奴が主任なんだ?」
そう、これは私が冒頭で述べた疑問と一致する。
そしてこれこそがピーターの法則なのだ!
この法則からは逃れられないというのは先に述べた。
仮に主任となったAに主任として作業員を管理する能力も備わっていたとしよう。Aは主任というこの職位でも依然有能なのだ。
そうなると奴が来る。…昇進だ。
そして昇進を遂げAは工場長になった。
工場長の業務は出発点だった作業員の業務とはもはやかけ離れているだろう。工場全体の運営を任される、畑違いの品質管理も監督しなくてはいけないだろう、そしてAにはその能力がない。
Aは無能レベルに到達したのだ。
出ました!ピーターの法則です!!
どうだろう?
ほとんどの方は思い当たる節があるのではないだろうか?
むしろ節しかないのではなかろうか?
身体の節々が痛いのは寒さのせいではなかろうか?
…失礼、つい熱くなってキテレツな事を口走ってしまったナリ。
著者はこれらの説を唱える立場を階層社会学と定義している。
階層があるとピーターの法則が起こり、そして人間は階層社会から逸脱することができない。
つまり人間はピーターの法則から逃れることができない、ということだろう。
ここからしばらく本書ではピーターの法則に関する詳細や様々な派生が語られていく。
スーパー有能者は全く出世できない、政治家の無能、無能上司は無能を昇進させる、頂上有能など 、どれもついつい頷いてしまうような主張だ。
そして本書は怖い怖い終盤に差し掛かる。
ピーターの法則を知らないと人は奇妙な行動(癖)に出たり、最悪は心身に悪影響が出るというのである。
無能に到達した者によくある奇妙な行動例はまるであるあるネタのようでクスッとしてしまう。
・書類の整理をとことんやらないと気がすまない「ファイル偏執症」
・組織図や業務フローチャートに固執しどのような些細な業務もフローチャートに従うべき だと主張する「フローチャート狂信症」
・部下に強く当たり常に部下を不安定にさせる「難癖症」
・どんな文章でも頭文字と数字で略してしまう「頭文字略称愛好症」
皆さんは身近な上司の行動にこれらに類似するものは見られないだろうか?
私はこれを読んだ瞬間、日々の光景が思い浮かんだほどだ。
ここからは健康に関わる更に怖い話になる。
自らが無能レベルに到達したことを自覚してしまった人間はそのことを気に病み身体を壊していくという。アルコール依存や偏頭痛、胃潰瘍、不眠症などは無能レベルに達したものによく見られる症状だという。
人によっては自分が無能であることを己の怠惰によるものだと考える。それらの人々は自ら過重労働の道を突き進み過労により身体を壊していく。
待てよ、
ピーターの法則からは逃れられないのではなかったか?
では我々は仕事による健康被害から逃れることはできないのか?!
今一度安心してほしい。
著者はこれらの健康被害から逃れる方法を複数提示してくれている。
その中でも最も推奨されているものが「創造的無能」である。
読んで字のごとく、無能であることを造り出すのだ。
無能レベルに到達する前の、まだ有能レベルの段階で、まるで無能であるように振る舞うことで昇進という死神の手から逃れるという大技を教えてくれる。
これで健康被害が心配される無能レベルに到達することを回避できる。
そしてその方法は至って簡単!
前述した無能者特有の奇妙な行動を取り入れればいい。
フローチャートに固執したり、アホみたいな略語を連発すればいいのだ。
周りから哀れまれバカにされ、陰で非難されようが健康を損なうよりはよっぽど幸せだろう。
奥義とは、無能を擬態することと見つけたり!
~読み終えて~
本書は挑発的でシニカルな論調で一貫している。
もちろん著者の主張を鵜呑みにするだけでも幸せな人生を送れるだろう。それくらいピーターの法則には共感を禁じ得ないポイントが山程ある。
だが本書では大事な点が十分に考察されていない。
人間の潜在能力だ。
向上心や成長力と言ってもいいかもしれない。
そもそも人間社会にある人間の仕事に対して人はそこまで無能なのだろうか?
今まさに上司に対する不満をピーターの法則に当てはめその怒りを鎮めることは有意義だ。無駄なストレスを感じなくて済む。
だがピーターの法則を自分に当てはめ、自分の限界を自ら制限することは果たして有能と言えるだろうか?
著者の挑発的でシニカルな言い回しは読者を奮い立たせるためのものだと信じることにした。
そしていつか自分が有能のままこの生を終えることができたならその時声を大にして言いたい
「ありがとうっ!!ピーターの法則!愛してるぜぇ!」と。
あるいは死に際にそんな事を言う奴は既に無能かもしれないけれど…