【書評】迷路の外には何がある?

 

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こんにちは。ごーいわです。

 

前回の本ブログで世界的超ベストセラー「チーズはどこへ消えた?」について書いたのだが今回はその続編について個人的な評価・感想を述べていきたいと思いまする。

 

ということで今回紹介する本は

「迷路の外には何がある?」である。

 

前作に引き続き内容は極めてライトで、ページ数も少なく、前作同様1時間足らずで読み終えられる1冊となっている。

 

構成も全くもって前作と同様。

寓話部分と、寓話について大人達がディスカッションするパートに分かれている。

 

今作は前作で登場した2人の小人と2匹のネズミの中で唯一立ち上がることができなかった、変化を受け入れることができなかった、小人ヘムの物語である。



ヘムは変化を受け入れられないどころか、その変化に対して憤りすら感じていた。

毎日、チーズのなくなったステーションで悶々としていたがしかし空腹には抗うことが出来ずついに新しいチーズを求め動き出すことになった。

 

久しぶりに歩く迷路の中でヘムはホープという新しい小人に出会う。彼女は前向きで行動的な性格で、ヘムを引っ張っていく。

ホープはチーズを食べたことがなくリンゴを食べていた、ヘムはリンゴを食べたことがない。

ホープにもらって食べる初めてのリンゴはとても美味しく、チーズだけを食べ追い求めていたことそのものが固定観念に縛られていたのではないかと考え始める。

ホープと共に迷惑を進む度に、思い込みによって自分の行動、果ては未来までが制限されていたということに気付いていく。

新しいものを受け入れポジティブに行動的になったヘムはホープと共についに迷路を攻略する…




あらすじはざっくりこんな感じである。

物語の枠組みは前作と同様である。

かつてのホーのようにヘムもまた迷路の壁のいたるところに「教訓」を刻んでいく。

前作と異なる点は核となるメッセージが違うということ。

 

前作チーズはどこへ消えた、では「変化」について焦点が当てられた。

変化は必ず来るものなに、人は現状が良いと慢心し変化を予期できず変化を恐れる。

常に注意を払い変化を予測し対応しろ、そして変化を楽しむことができれば人生は豊かだ!

というようなことを訴えていた。

 

今作迷路の外には何がある、では「信念」に焦点が当てられている。

古い信念に縛られるな、信念にはいい信念と悪い信念がある、新しい信念を持たなければ道は開けない、というわけだ。

食べ物はチーズだけだと思っていたヘムは初めてリンゴを食べて感動を覚えたわけだが、これは本作のメッセージでいう古い信念に縛られていたが古い信念を捨てることで新しい道が開けたということである。

 

本作を可能な限り短く要約するのであれば、

固定観念を捨てろ、目の前の新しい出来事を受け入れろ、そうすることで世界は広がっていく」

といった感じでいいだろうか。



私の率直な感想は前作と同じである。

 

何を今さら…

 

前作と全く同じ構成で出来た作品なのだから読み手が前作と同じ感想を抱くというのは当然の帰結と言えるのかもしれない。



しかし、内容はともかくとして私は本作に対して前作にはなかった圧倒的嫌悪感を抱いた。

それは「信念」という言葉の使い方に対して抱いた嫌悪感に他ならない。

 

古い信念は捨てろ、という作中での画期的な教訓の元、破竹の勢いでヘムの古い信念は捨てられていく。

 

信念とはそんな安いものだっただろうか…?

 

私は信念という言葉が大好きである。

それはそれは好きであり、いずれ信念と結婚しようと考えているくらいだ。

2年くらい前に公開されたハクソーリッジという自分の生命が懸かった状況でも決して信念を曲げない医療兵の映画でむせび泣いた。

 

私は信念という言葉を「価値観」や「考え方」などで置き換えられない唯一無二の観念であると考える。作中で使われる信念とは「価値観」や「考え方」で置き換えられるものが多分に含まれている。

アイデンティティー、すなわち自己同一性の1つの形が信念だ。その定義においては新年を捨てることは自己の崩壊や自己否定を意味するであろう。

信念とは自分そのものである、それが私の中での信念の定義だ。




とまぁ本作の伝えたいメッセージとは少し異なるところで嫌悪感と不快感を抱いてしまった私は本作を批判することしかできない偏屈者だ。

どことなく私がヘムに共感できるのはつまりそういうことなのだろうか。

 

私が真に本作を理解するためには信念という言葉の定義に関して、私が持つ「古い信念」を捨てなければいけないのかもしれない…。

 

 


 

 ※次回更新は8/30(金)更新予定※

【書評】チーズはどこへ消えた?

 

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こんにちは。ごーいわです。

 

またしても久々の更新になってしまいました。

 

NBAが終わり毎日のNBA観戦から解放されて1ヶ月半が経過するというのに本を読むペースが上がってこない…。

このままだと過去6~7年での年間読書数最低を記録しそうである。

仮にも書評ブログを始めた年だというのに。

なんということだ、大いなる行動の矛盾である。

しかしこの矛盾こそが新たな始まりかもしれない…。

 

またしても全く意味のわからないことを言ってしまった。私はすぐ言う。

 

なんにせよ読書ペースが過去最低を記録しそうなことは私にとって色んな意味で嘆かわしいことであるが、そんなことはさておきとりあえず本題である書評に入ります。




今回紹介するのは「チーズはどこへ消えた?」である。

だいぶ前に話題になっていた記憶があるが、最近また本屋やネットで見かけるようになったので、なんでだろう?(週間ビジネス書売上ランキングでも上位にいた)と思っていたのだが、満を持して続編が出た!ということらしい。

 

せっかくのタイミングなので続編とセットで購入することにした。




本書の本編は寓話である。

 

物語は2匹のネズミと2人の小人がチーズを探しているところから始まる。

チーズは幸福をもたらしてくれるからだ。

そして2匹と2人は膨大なチーズを手に入れる。それは思っていた通りの幸福と安定をもたらしてくれた。

しかしチーズはある日突然消えた…。

安定した幸福が一瞬に消え去ったのだ。

その時2匹と2人はそれぞれ何を思い、考え、どうしたのか…?

 

とまぁ寓話部分のあらすじはこんなとこだろう。

 

チーズとはもちろん比喩だ。仕事や生活、家族、結婚、恋人、価値観など人生の重大要素に置き換えることができる。

そういった人生の重大要素が突如自分の前から無くなる、あるいはそれに近い変化を遂げたらあなたならどうするだろう?

 

好ましくない変化とは誰にも必ずやってくるものだ。不変のものなどないのだから。

そんな時どうすればいいのか?そもそも日々の心掛けによって好ましくない変化に備えることができるのではないか?

 

本書の論旨はそこにある。

「人は変化を恐れる。だが変化を恐れるな、変化に常に敏感に気を配り、変化に適応し、変化を楽しみ前進しよう。そうすれば人生はより豊かになる」

 

私なりに本書を可能な限り短く要約するならこうなる。

私が自分でした要約であるか、これはまるで格言のようである。

 

子供でも簡単に読める物語だからこそ、誰しもが物語を自分なりに咀嚼することができ、自分なりの格言へと昇華することを可能にし、そして胸に刻み込むことが出来るのかもしれない。

寓話だからこそ、の良さなのであろうか。

 

最終盤ではこの寓話を聞いた様々な背景を持つ大人達がそれぞれの解釈を語り合う。

そのやり取りがまた読者それぞれがより深く本書を解釈する手助けをしてくれる。




~個人的感想~

100%個人的な感想を言ってしまえば、なぜ本書が世界的なベストセラーとなっているのかがよくわからない、というのが正直なところだ。

 

変化を恐れるな

変化は必ず来る

変化に適応しろ、楽しめ

 

こんなことが語られている書籍や成功者の言葉というのは無限にある。

私の長い付き合いの友人で、友として人としてだけでなくビジネスマンとしても心から尊敬できる奴がいるのだが、彼はまだ学生の頃から「現状維持はあり得ない。それを本当の意味で理解していれば今やらなきゃいけないこともわかるし、どんなことにも覚悟が持てる」

なんて偉そうな事をぬかしていた。

 

私はビジネスマンとしても1人の社会人としても決して褒められた人間ではないが、本書の訴えに関しては以前からきっと知っていたのだろう。

だから本書を読んでいる最中から読み終えても尚、「何を今さら感」が拭えなかったのである。

私にはそういった理由で本書は刺さらなかったわけだ。

 

とはいえ本書終盤のように、寓話について友人や会社の同僚達と熱く議論をしたわけではない。もし本書の真の訴えがその議論にこそあるのであれば私は本書の真価をまだ知らないことになるわけだけど。



いずれにせよ続編もすでに購入済みなので先入観を捨て続編を読んでみようと思う。

続編については次回の更新で記述します!

 

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 ※次回更新は8/16(金)予定※

【書評】大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる

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こんにちは。ごーいわです。

 

今年のNBAが幕を閉じ、読書を再開して3週間、現時点では全く小説を読む気がおきない…。

読書を1ヶ月封印していたこととは無関係で、理由は明白である。

ここ最近、アニメを並行して3作、自身初の試みとなる海外ドラマを1作、さらに2日に1作ペースで映画を見ているため本にストーリー性を全く求めていないのだ。

こんだけ毎日色んなストーリーを見せられてるのだからせめて活字くらいストーリーのないものであってくれ!

そんな私の心の叫びが聞こえてくるようだ。



しかし新書で買った積読本は圧倒的に小説が多い。

このままだとかなりの額のお金を無駄にしていることになる。

これだけ経済やお金の本を読んでいるのにお金を無駄にしているなんて!そんな事は耐えられません!頼む、俺の小説熱よ、帰ってきてくれ。

 

…アニメかドラマ見んのやめろよボケがって話なんですけどね。




とゆーことで、今回も経済に関する本。

今回ご紹介するのはこの1冊、

「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」だ。

 

冒頭に、この世の誰もが興味ないと思われる私の下らない自分事話を書いたのには理由がある。

この「大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる」は私にとって大変ありがたい本であった。そしてそれは私だけではないはずだ。

大学で経済学の基礎を学ばず、社会に出てから雑誌や新聞で経済に興味を持ち、その後読み物としては読むようになりなんとなくの知識は蓄積されたものの、学問としての経済学の基礎知識は備わっていないまま。という恐らく相当数いるであろう社会人にとって、まるで聖典のような本だ。

この本に対する個人的評価は大変高いのだが、要は教科書みたいなもんなので、書評としては書くことがないのである。

だから私のくだらん自分語りで文字数を稼いでみた。



タイトルに偽りなし!

普段ニュースや新聞、雑誌でよく目にする経済用語や状況について大変分かりやすく、簡潔にまとめてくれている1冊だ。

 

書評としては以上終了である。

 

著者の考察もなければ解釈もない。心情が描かれているわけでもない。

書評を書くというのには無理である。



じゃーそんな本ピックアップすんなということになってしまうのであるが、それでもこの本を選んだのには理由がある。

それはただただこの本が個人的にオススメである。ということだ。

 

会社で働くようになって、経済に参加している実感が湧くようになりようやく経済に興味を持つようになる人は多いだろう。

無論私もその1人。

しかし、学問として自己学習をするには敷居が高く時間と労力をかける気が起きない。

でももっと詳しく知りたい。

そんなジレンマを解消してくれる、素晴らしい本だ。

 

これからニュースを見た時や経済紙誌を読んだ時、居酒屋で生半可な経済議論に発展した時、この本を読んでいるのといないのとでは受け取り方も自身の発言の深みも変わってくるに違いない。

読み終えたあと、小さいながらに自分が1つ進化したとはっきり自覚出来た数少ない本だった。

 

ある意味ではこういった教科書のような本こそ真に自己啓発本と言えるのではなかろうか?



早く偉そうに知ったかぶって経済を語りたい!

そう思った瞬間、自分の人間としての根本的な小ささは何も変わらないということを痛感した。

 

よし、次は自分の器を根本的に大きくしてくれる本を探してみようかしら。

 

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 ※次回更新は7月26日(金)予定※

【書評】父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話

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こんにちは。ごーいわです。

 

えらく久しぶりの更新になってしまいました…。

勝手に言い訳をします。

私ごーいわの1番の趣味はNBA観戦なのですが、そのNBAが最も盛り上がるのが4月上旬~6月中旬なのであります。

この時期は仕事以外の時間はNBAに捧げておりまして、読書をほったらかしにしておりました…というわけで今回が久々の更新になった、というのが言い訳の全容であります。

 

これからまたつらつら読んだ本について書いていこうと思うのでお付き合いいただけたらこれ幸いでございます。




というわけで、今回紹介するのはこの1冊。

「父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話」

購入してからNBAのせいで積読になってたので微妙に旬が過ぎた…全くNBAには困ったもんだぜ。



まずこの本は著者が興味深い。発売当初話題に上ったのも著者がゆえにであろうと思われる。

著者のヤニス・バルファキス氏はギリシャの経済学者でありギリシャ財政危機の際の(2015年の方)財務大臣である。

 

一国の財政危機に直面した経済学者が経済について娘にどのように語るのか…こんな興味深いシチュエーションの本はなかなかないだろう。



最初にざっくりと、この本の全体的な方向性というか雰囲気(属性?)を自分なりの解釈でお伝えしたい。

 

経済の話とあるがいわゆる学術的な経済学(実学と言うべきか)の要素は少ない。

本書は非常に読みやすく分かりやすい。誰もが経済の予備知識なく、読み進めることができ、更にこれを機に経済や社会をもっと知りたいと思うきっかけになり得るような1冊である。

 

例えるのであれば池上彰氏のテレビ番組などが感覚として近いかもしれない。

少し内容的に物足りなさを感じることもあるが、かくいう私も学問として経済学を学んだことのない門外漢なのでこういう1冊はありがたい。

 

父が娘に語る~、というタイトルもなるほどと素直に納得できたものだ。



以下、内容をすこーしだけ。

 

経済は「余剰」と「文字」によって生まれたという。

人間は農耕を発明した。農耕によって、これまではその日暮らしだった食料が備蓄できるようになった、これが余剰だ。

そして余剰を管理するために文字が発明された。

そして経済が生まれた…。



この池上彰感、共感していただけるだろうか?

(決してバカにしてる意図はない)

 

同様の非常にわかりやすく取っ掛かりやすい論調で様々な経済・社会の事象を説明していく。

植民地時代なぜ西欧が優れていたのか、封建時代の社会の仕組み、銀行の役割や融資について、産業革命、などなど。

 

中高時代になんとなく勉強の知識として嫌々頭に詰め込んでいたことも、この歳になってわかりやすい説明と共に頭に入れようとするとそれは実に有意義で興味深い知識なのだと実感する。



本書後半では未来の話にフォーカスされる。

近年のこの手の本では当たり前すぎてもはや言うまでもないかもしれないがテクノロジーがもたらす新しい社会についての考察である。

テクノロジーによる未来社会の考察ではお馴染みであるが、そういった社会を考える上では実学ではなくむしろ哲学や道徳的な観点が多く用いられている。

娘に語る~とあっては尚更だろう。




近く訪れる新しい社会、人間がこれまで自らの仕事としてきたことが機械にとって代わる社会。そこではこれまでの経済の概念が通じな可能性が高い。

未来を担う娘に自分が生きる新しい社会を考えてもらうには、まずこれまでのそして今の経済がどのように形成されたかを知っていてもらわねばならない、そんな筆者の願いが本書に込められてるように思う。

 

本書は、大人達が子供達に未来を託すためのバトンとも言える1冊かもしれない。

 

白状しよう。

GWに読んだ小説「そしてバトンは渡された」が好きすぎてどうしてもそれになぞらえたくて強引にまとめてみた。

でも、あながち的外れではないと思う。

 


 

 ※次回更新は7月5日(金)予定※

【書評】予想どおりに不合理

 

 

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こんにちは、ごーいわです。

 

行動経済学という学問をご存知だろうか?

 

行動経済学とは、経済学に心理学の観点で観察された事実を取り入れ研究していく学問、そう定義されているようだ。

 

どうだろう?これだけでとても興味深く感じてしまうのは私だけだろうか。

心理学と言うのはいつだって興味深い。だって人間だもの。

その心理学を、我々の日常生活とは切っても切れない経済学に取り入れたとあっては知的欲求がくすぐられずにはいられない。

 

とゆーことで、行動経済学をとても分かりやすい身近な実験を基に解説している1冊を読んでみたので紹介したい。



今回紹介する本は

「予想どおりに不合理」

である。



「自分は物事を論理的に考えた上で行動を選択している。」

ほとんどの人はそうやって自分を信じて疑わないだろう。そうに決まっている。

逆に、「私はあらゆることをてきとーに決めてるからいっつも損ばかりしてると思うー♪」

こんなことを言う人がいたら神経を疑う。

少なくとも一緒に仕事をしたいとは思わない。

でも可愛らしい女性であればそれはそれでありなんじゃないかと思う。(何を言っている?)

 

しかし、論理的だと信じている自分の選択や行動には実は心理的作用が多分に働いており、ゆえに人は論理的ではなく全くもって不合理な判断を下している!

それが本書の論旨である。

 

身近で分かりやすい事例を基にさまざまな仮説を立て、実証実験でそれを証明した上で解説してくれているので大変わかりやすく読みやすく、納得感がある。

これを読めば新しい商売を考える上での参考になるのでは?と思うし、マーケティングの武器にもなるだろうと思われる。

私はマーケティングに関して知識が浅いのだが、そもそもマーケティング理論はこの行動経済学を応用しているのではないかと思える程だ。

同時に、心理学って人間社会を生きる上で絶対知ってた方が得だよね、と改めて考えさせられた。



それではここから簡単に本書の中身を紹介していきたい。



「人は、そうであってはならないものまで相対的に判断している」

らしいのだ。

本書の最初に論じられている説なのだが、これは一人の消費者として知っておいて損はない貴重な話であった。

 

では、そうであってはならないものまで相対的に判断しているとはどういうことか?

雑誌の年間購読サービスを例に実験を行い、それを証明してくれた。

 

雑誌の年間購読について100人の大学生を対象に以下の3パターンの選択肢を用意し、どの選択肢のサービスを購入するかをアンケート形式で調査した。

 

①ウェブ版だけの購読 59ドル

②印刷版だけの購読  125ドル

③ウェブ版と印刷版のセット購読 125ドル




アンケートの結果はこうなる。

①を選んだ人   16人

②を選んだ人   0人

③を選んだ人   84人

 

お気付きだろう。②と③にはサービスのボリュームに大きな差があるにも関わらず値段が同じなのだ。このような状況で②を選ぶ人はあまりに愚かだと言わざるを得ない。

しかし幸いにも②を選んだ人はいない。

これだけを見れば、人は合理的な判断ができる、と言えるだろう。

 

ここでアンケートを修正する。

内容は同じく雑誌の年間購読、調査対象も同じく大学生100人。変更点として選択肢を以下の2つにした。

 

①ウェブ版だけの購読  59ドル

②ウェブ版と印刷版のセット購読  125ドル

 

先のアンケートで誰からも選ばれなかった選択肢を外したわけだ。

 

この修正後のアンケート結果について論理的に推測するのであれば

①ウェブ版だけの購読  16人

②ウェブ版と印刷版のセット購読  84人

ということになる。

なぜなら除外された選択肢はそもそも誰も選ばなかったのだから。

 

しかし、このアンケート結果は論理的推測とは全く異なるものとなった。結果は以下の通り

 

①ウェブ版だけの購読  68人

②ウェブ版と印刷版のセット購読  32人

 

この一貫性のないアンケート結果こそが我々人間が「相対的に判断している」ことの証明に他ならないというわけだ。

そのことを前者の3択のアンケートを基に解説しているのだが、要するに人は比較が容易なものに焦点を当ててしまいがちで、その比較結果が最終判断に大きな影響を及ぼす、ということだ。

①と③の比較は容易ではない。値段も大きく違えば、その分受けられるサービスにも大きな違いがあるのだから。

しかし②と③の比較はあまりにも容易だ。

値段が全く同じであるにも関わらず、受けられるサービスに大きな差があるのだから③を選ぶ以外に考えられない。

そして容易な比較によって得られた③に対する高評価が、本来難しかったはずの①と③の比較に影響を及ぼしてしまった。それこそが前者の3択のアンケート結果と後者の2択のアンケート結果のとても論理的とは言えない相違である。

 

著者の言うとおりだ、我々は「不合理」なのである。ざんねんっ!

 

ちなみにこの前者の3択のアンケートと同じサービス展開は、実際に有名な雑誌が現実に実施しているものらしい。

ここでいう②のような選択肢は「おとり選択肢」と呼ばれ、③の選択肢(最も単価が高い選択肢)を選ぶよう誘導するためのマーケティング的なトラップなんだとか。

怖いですな~!こういったことに無知のままでいると、自覚がないままに搾取される側に回されてしまうのだろう。

この本に出会えたことに感謝せずにはいられなかった。どうもありがとう



てな具合で、経済活動の中で我々がいかに心理的作用の影響を受け、その結果不合理な判断をしているのかということが、およそ450ページにわたりさまざまな実験結果と共に論じられている。

本書は秘伝の巻物のようだ。

先の例のように、本書の教えは消費者としては時に教訓となり、ビジネスマンとしては時にマーケティングの先生になる。

 

あっぱれ行動経済学



私が本記事で紹介したのは本書の冒頭のほんの一部に過ぎない。

この記事をお読み頂き、ほんのちょっぴりでも頷いたり焦ったりした方は是非ともこの本を読んでいただきたい。

きっとこれからの日々の生活の中での選択が真に有意義なものになるに違いない。

 

予想どおりに不合理


 ※次回更新は5/27or31予定※

 

【書評】そして、バトンは渡された

 

 

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こんにちは!ごーいわです。

 

GWはいかが過ごされただろうか?

私はぴったり半分の5日間はアクティブな予定を入れ、残りの半分はひたすら家にこもって読書にNBA観戦、映画にアニメと1人遊びのフルコースを堪能した。

 

せっかくの10連休、遠くへの旅行の予定がなかったので退屈な連休になるかもと危惧していたがなんのことはない、最高の10日間であった。

 

そのフルコースの中、GW最後の2日間、私はひたすらに泣いた。人目もはばからず泣いた(一人暮らしの自宅でだけど)

 

その理由は1冊の本にある。

今回はその1冊を紹介したい。

 

2019年本屋大賞受賞作

「そして、バトンは渡された」

である。

 

今や芥川賞直木賞を凌ぐ勢いで支持を集めている本屋大賞だが、この賞はあまり私の肌には合わないのではないかと常々思っていた。

過去大賞作品を3作、上位入賞作品をちらほらと読んだがどれもいまいちピンとこなかったのだ。

 

そういう意味では今回「そして、バトンは渡された」を買うにあたり、言ってしまえば本屋大賞作品を購入するのはこれで最後、くらいの気持ちでいた。

が、幸か不幸か本書は私にとってのスーパースマッシュヒットであった。

「そして、バトンは渡された」は2019年本屋大賞とごーいわ大賞のダブル受賞である。

瀬尾まいこさん(著者)、おめでとうございます。

 

何はともあれこれで今後数年は本屋大賞を買わずにはいられなくなってしまった。




さて、ここからは本書について紹介していきたい。

最大限短くざ~~っくりとあらすじから。



~あらすじ~

 

主人公は高校3年の女子高生、名前は優子。

現在は父親と2人暮らしだ。

親は全部で5人…母親が2人、父親が3人いる。

家族の形態は17年間で7回変わった。

優子には悩みがある。

こんなに特殊な家庭事情を抱えていながら不幸ではない、それが悩みだ…。

 

本編はこんな感じの導入から始まる。

 

なぜ不幸ではないのだろうか??

 

本編を読む上で重大なネタバレにはならないので端的に言ってしまうと、

優子は5人全ての親から真っ直ぐに愛され、優子もまた全ての親のことを認めている、だから本来同情されるような境遇でありながら不幸ではないのだ。

 

高校3年生の優子視点で語られていく日常生活と共に、それぞれの親がいなくなったり新しい親が現れた時の過去を振り返る。

親はそれぞれがとても個性的でタイプが異なる、しかし絶対的に共通していることが1つある。

それは優子のことが大切で愛しているということ。

そして優子もまた親のそれぞれの特性を理解し受け入れ優子も親のことが好きになるのだ。

 

その時々で優子が抱いた思いや不安、そして今思い、考えていることがとてもストレートに描かれる。

 

個性的でコミカルな家族を綴った心温まる日記のような物語である。





~感想(ネタバレあり)~

 

あらすじはネタバレ要素を最大限排除し、あらすじと呼べないくらいざっくりまとめた。

ここからの感想はネタバレ要素満開でお話したいので未読の方は避けられたし。




形式は普通ではないが真実の家族愛の形

一言で言えばこの物語はそう言えるだろう。

血の繋がりがなくとも周りの環境(里親)がその子に正面から愛をぶつけることが出来れば温かい本当の家族になることが出来る、この物語を読むとそう思わずにはいられない。



読書最中から読了後まで一貫して、私の中で2つの登場人物への変わらない評価がある。

1つは優子のまっすぐさと心の強さだ。

こんなおっさんが架空の17歳に勇気をもらってしまえるくらいに強い(笑)

場面場面での優子の強さ、ひたむきさ、優しさはとても魅力的で、この物語を純粋に心温めるための1冊たらしめることに大きく貢献しているように思う。

優子は生来そういった心の強さを持っているから特殊な境遇にも耐えられたのではないか?なんて考えもよぎってしまうほどであるが、それは野暮なことだ。この物語があってこその優子、それでいい。

 

そしてもう1つの揺るぎない人物評価は「森宮さん」の父親としての信念についてだ。

 

作中で何度も形容されているが森宮さんはズレている。あまりに過保護な行動やすっとんきょうな発言がそれを裏付ける。

だが、それゆえにそのズレた言動から優子への溢れんばかりの愛情と父としての信念が熱く読者に突きつけられる。

私はこの森宮さんに脱水症状になるほどに泣かされるはめになったわけだが。

 

本書は2章構成であり2章ともに優子視点で語られるが、物語初っぱなの1ページと最後のわずか数ページは章で括られておらず、森宮さん視点で語られる。つまり森宮さんは隠れ主人公の役割を担っていると言える。

 

物語の最後、優子と森宮さんの会話と森宮さんの語り口を引用したい。

優子の結婚式のシーンだ。

 

「ありがとう。森宮さん」

「最後はお父さんと呼ぶのかと思った」

「そんなの、似合わないのに?」

優子ちゃんは声を立てて笑うと

「お父さんやお母さんにパパやママ、どんな呼び名も森宮さんを越えられないよ」

と俺の腕に手を置いた。

“どうしてだろう。こんなにも大事なものを手放す時が来たのに、今胸にあるのは曇りのない透き通った幸福感だけだ。”

 

“本当に幸せなのは誰かと共に喜びを紡いでいる時じゃない。自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だ。あの日決めた覚悟が、ここへ連れてきてくれた”

 

1~2章で描かれてきた父として誠実で且つコミカルな森宮さんと優子の関係の全てが爆発する。

 

これで泣かない奴おるんか?!

 

このシーンの直後すごい勢いでページを逆にめくり再読した。大号泣しながら。

私は森宮さんに感情移入しすぎたようだ。



補足的になるが、作中でただ1人特殊なエッセンスを加えているのはやはり梨花の存在だろう。

優子の望みを叶えるための再婚をしたり、優子に確かな居場所を与えるために再婚して自らは姿を消したり。

現実的には非難されることもあるような行動であるが、その原動力は優子への愛情ただ一点のみだ。この破天荒な母親は家族愛の物語を盛り上げる最高のスパイスでもあったのだ。




今改めて思う。この1冊は自分を作ることの手助けをしてくれる物語なのではなかろうかと。

 

人はそれぞれだ、だから家族の形もそれぞれある。

愛し方もその受け止め方もそれぞれあるに決まっている。それは個性だ。

大事なことは相手を傷付けないように慮るという大前提のルールを守りながら、相手の事を本気で想うことだ。

そうすればどんな形でも人は幸せな気持ちでいられる。きっと相手にも幸せを与えることが出来る。



小説はやはり素晴らしい。良い小説に出会うことは何よりの自己啓発になり、勉強になり、そして成長に繋がるものだと思う。



この気持ちが冷めないうちに、、、、渡すバトンも渡されるバトンもない私はまずはバトンを探しにいこうかしら。

 

 

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そして、バトンは渡された [ 瀬尾 まいこ ]
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 ※次回更新は5/13(月)か5/17(金)予定です※

【書評】メモの魔力

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こんにちは、しおり (@shiori_murmur) | Twitter です。

今日は、長い間書店の売り上げ上位に鎮座し、かつ一時期は品薄で在庫が無かったほどの人気書です。
著者であり、SHOWROOM株式会社の代表取締役である前田裕二氏は
朝のTV番組でコメンテーターを務めていたり(時折前田氏がメモをしている様子が見られる)、
最近では自宅公開なんかも取り上げられていた話題の人。

その著者が自身のノウハウをぎっしりと詰め込んで書いてくれた1冊が、この『メモの魔力』です。

書くことで夢を叶えるとか、手帳術やタスク管理であったりとか、
そもそも何かを書きとめるという行為自体は
昔から色々と取り上げられています。

この本はちょっとしたメモ術とは異なり
使い方次第で強力な武器にもなり、有用な手段にもなり、
反対に使わない人はまったく使わないだろうという感想を持ちます。(語弊がないように言うと、ここまでのレベルでメモをとることをしない人、というのが分かりやすいかもしれません)

また、実際のメモの書き方については本書に詳細やサンプルが掲載されているため
ほんの一部と、個人的にどんな人におすすめかを今回まとめたいと思います。

早速ですが、個人的には、大きく以下の人にお勧めしたいです。

*企画職の人、アイディアを出す部門の人など「考えること」「生み出すこと」が仕事の人(常に何かを考え、模索したい人とかにも使えそう)

*自分という人間を深堀りしたい人(就活生にも良いかもしれない)(あとはやりたいことを見つけたい人とか)


*思考力を深めたい人(じっくりと物事を観察あるいは思考する力を高めたい、あるいは集中力や腰を据えて課題に取り組む訓練をしたい人)

2つ目の自分を深掘りしたい人であれば、本書の巻末に自分を知るための自己分析1000問がついているので
これに従って進めていけば分かりやすいと思います。
自分の夢や性格、好み、これまでの経験、価値観やその起因などを深掘りしていくことができ、比較的取り組みやすいはず。

単純に過去の経験や自身の価値観を振り返るだけ(事実の列挙だけ)ではなく、
そこから一歩踏み込んで深掘りしていくことになるので
そこが就活における表面的な自己分析と異なる部分であり、

しっかりと自己を見つめ直したい人には良いと思います。

では、たとえばアイディアを出したり、日々の出来事を掘り下げていくメモはどうかというと。
要約すると、「具体的な事実」を「抽象化」し、それを「転用」するという流れになります。
抽象化する際は、「What」「Why」「How」といった切り口でアプローチします。
ここでの視点によってどのような転用に至るかがまったく違ってきます。
たとえば、Whyはヒット商品の人気の理由、刺さった理由を考えるのに適した切り口です。

・事実  でその商品における具体的な事実をあげる
・抽象化  で商品がヒットした理由をまとめる
・転用  で自身の考案するサービスやその他の事象に活用できないかあげる

このような流れになります。

書き出してみることで考えが整理されるのはもちろん、
自身の視点を切り口にデータを蓄積していくことで資産になるのもメリットでしょう。

また、著者はメモによって鍛えられるスキルを以下の5つにまとめています。

①アイデアを生み出せるようになる
②情報を「素通り」しなくなる
③相手の「より深い話」を聞き出せる
④話の骨組みが分かるようになる
⑤曖昧な感覚や概念を言葉にできるようになる

2章が「メモで思考を深める」という題になっていますが、
メモを取るテーマを、腰を据えてしっかりと見つめ
深掘りしていくというのは意外と時間がかかるものです。
私も実際にノートを用意してやってみましたが、
抽象化する、転用を考える時点で頭を使うし時間も使います。
思考力を鍛える訓練としても有効そうです。

もともと何かの目的があり、それにこのメモの方法を活かしたいという人には是非読んで実践してみていただきたいですし、
まずは書くことや考えることを練習をしてみようという人にも良いと思います。


ちなみに、Twitterなどで「メモ魔」のハッシュタグ検索で
実際にやっている人の投稿なども見ることができます。
集まってグループワークをする会も多く見られるので、興味がある場合はそちらもチェックしてみると良いかもしれないですね。

 


 

 

*次回更新日は6月10日(金)です*